先日、福岡夜間救急動物病院を受診したワンちゃんが来院されました。
子宮蓄膿症の疑いで、
「すぐに昼間の動物病院に行って、手術の日取り決めて」と言われたとのこと。
来院時は元気でしたが、夜間救急で行った血液検査の結果は「炎症反応」を示す値が見たことがないほど高く、白血球も増加しています。
エコー検査では、子宮内容物が確認できていたようです。
当日に手術をすることに
経過を診るために、当院でも血液検査とエコー検査を行いました。
抗生物質を投与したためか、炎症反応の数値は少し下がってはいましたが、それでもまだ高く、白血球も増加中。
エコー検査では、子宮内容物と子宮内壁肥厚が確認できました。
以上のことから「子宮蓄膿症」の可能性が高く、子宮と卵巣の摘出を行うことになりました。
子宮蓄膿症は、診断から手術までの時間が長いほど、リスクが高くなります。
この日に手術することが決まりました。
飼い主さまの気になる言葉
診察の際、飼い主さまが
「水を飲もうとして怒ってひっくり返していた」
「ヨダレが出ている」
と気になることを言われました。
食欲がなかったり、下痢していたり、元気がなかったりという症状は、子宮蓄膿症でよくあらわれます。
しかし、この症状は口腔内の問題で起こる症状です。
飼い主さまには
「麻酔をかけた際にしっかり確認しますね」とお伝えしました。
“ついで”に見つかった「糸」
お口の中、特に奥や歯の裏、舌の裏などをしっかり「診る」ためには、麻酔や鎮静が必要です。
ただ、余程の症状がない限り、麻酔や鎮静をかける決断はしにくいものです。
今回は子宮の問題で手術が決まったので、“ついで”に口腔内を確認できたのが不幸中の幸いでした。
気管チューブを挿管して、ガス麻酔で維持し、まずは飼い主さまとの会話で気になったお口の中を見てみました。
最初は「歯肉炎も口内炎も口腔内腫瘍もないなー」と思っていましたが、舌をめくって裏側も確認すると、潰瘍と出血がありました。
「腫瘍かな?」と思ったその時、奥にチラッと「糸」のようなものが見えたのです。
その「糸」は、傷から生えているように見えました。
そーっと引くと、その「糸」は舌の裏側をグルっと回り、両サイドから喉の奥へ続いていました。
なんと「糸が舌の裏側に食い込んで、舌が切り取られている最中」だったのです!
そりゃあ痛かったでしょうし、水も飲めなかったでしょう。
飼い主さまのあの言葉がなければ、見つけることはできなかったと思います。
先に開腹して、卵巣と子宮摘出。
子宮はいびつに変形し、卵巣の異常な発達も見られました。
子宮蓄膿症と言うより、腫瘍、または慢性経過のように見受けられました。
そのため、病理検査に出し、結果を待っているところです。
糸は開腹手術中だったことが幸いし、腸管の損傷がないかも確認しながら、ゆっくり引き抜くことができました。
場合によっては、腸管を切開しなくてはならないので、口から無事に抜けて良かったです。
ちょうどフィラリアの説明や回虫の説明をよくする季節なので、副院長は「舌の裏側から線虫が出てきた?」と思ったそうです。
糸は副院長に引き抜いてもらったのですが、
「糸が腸管に引っ掛かるのも怖いけど、これが線虫で動いて逃げたらどうしよう」と、本気で考えていたそうです。
それはそれで怖いですが・・・ホラー映画と寄生虫カラーアトラスの見すぎですね。
数時間の点滴で脱水を補正し、午後の診察時間に食い込んでしまいましたが、無事に手術を終えました。
快く予約をずらしてくださいました飼い主のみなさまに感謝申し上げます。
異物を食べたら即来院
このワンちゃんは数日の点滴入院を経て、無事に退院。
嬉しそうに飼い主さまと帰って行きました。
今回の卵巣と子宮を見て、やはり「避妊手術」や「去勢手術」の必要性を感じます。
そして、幸か不幸か、同時に見つけることができた「糸」による傷。
ヒモ状のものは怖いです!
イヤホンを食べてしまった子もいました。
飼い主さまが忙しい時、お子さまが遊んでいる時、ちょっと物を取りに席を外した時など、ワンちゃんやネコちゃんが異物を食べてしまうことは頻繁に起こります。
特に、ヒモ・糸・ゴムには要注意です。
目を離さない
片付ける
ペットと部屋を分ける
それでも、隙をついて食べちゃう子はいます。
異物を食べた場合は、食べた可能性のある物の残りや写真を撮って、早めにご来院ください。