Facebookには投稿していましたが、実はこの夏、子狸を保護していました。
過去形なのは、もう山に帰したからです。
色々な意味で強烈すぎて、ブログには掲載していなかったのですが、気持ちの整理も兼ねて書いてみました。
当院の患者さんが保護され、連れて来られたのが始まりでした。
保護した場所は、量販店の側溝。
意外にも人通りが多い街の中です。
「側溝から仔犬の鳴き声がする!」と必死に探し、保護したそうです。
しかし、よく見てみると、どうも犬ではない。
そこで、健康状態と種類の確認のために来院されました。
見れば太い鼻筋、わずかながら目の周りの隈取り・・・
肉球の特徴からも、子どものタヌキでした。
離乳前後、体重は300gくらい。
痩せて皮膚病もあり、育つかどうかも不安です。
疲れ果てているのか、瞳はどんよりとして、何かを諦めたような様子でした。
しかも、皮膚病は疥癬(皮膚に潜り込む小さなダニの仲間)でしたので、人間にも感染する可能性があります。
もともと疥癬は犬や猫の病気で、タヌキには耐性がないため、ひどくなりやすいのです。
本来ならタヌキが遭遇しないハズの犬や猫のいるエリアに入り込んでしまい、感染したのでしょう。
出来るだけ何とかしてあげたいと、患者さんのご自宅で哺乳育児と治療を開始されました。
その2週間後、再び来院した時には見違える様に福福しく、そして人間も動物も変わらぬ子ども特有の、好奇心溢れる命の輝きを取り戻していました。
とても愛情深い保護者を得て、哺乳と保温と治療を受けてスクスク育っている姿を見るのは、とても嬉しいものです。
しかし残念なことに、保護した方が体調を崩し、育てる事が出来なくなってしまいました。
調べたところ、現在、タヌキは自治体によっては害獣指定されていて、動物園等でも保護していないそう。
しかし、一生懸命ミルクを飲んで、食べている姿を見ると、殺処分には忍びない・・・。
スタッフと相談の末、これも経験と言うことで、このタヌキを院内で育てることにしました。
「秋には山に帰す!」を目標にして、虫を捕る練習をさせたり、あまりの臭さに身体を洗ったり。
夕方に水撒きをしていると、後ろからちょこまかついてくる姿はかなり愛らしく、「なるほど、むかし話に子狸が可愛らしく登場するハズだ」と納得しました。
姿が見えないと「キューキュー」と甘えた声で鳴いて、人を探して自ら近寄ってきます。
ハッキリ言ってかなり臭うのに、私たちはメロメロです。
しかし、可愛らしいのも子どものうちだけ。
身体が大きくなり、「急に体臭が変わったかな?」と思ったのが、8月の終わり。
体重は1.5kgを越えていました。
今思えば、それが「その時」でした。
しばらく前からやや攻撃的になり、突然怒ったりはしていましたが、人間が気づくぐらいに明確に体臭が変わった日を境に、格段に攻撃的になり、スタッフに負傷者が続出。
これまで触ったり抱き上げたりが普通に出来ていたのに、ケージの掃除ですら怒り出して噛みつく事態。
ついに「巣立ちの時」が来たのでしょう。
虫や葉、果物も食べる事ができます。
不安は残りますが、実りの秋のうちに、山に帰すことにしました。
移動用のケージに入れるのも噛みついて引っ掻いての大騒ぎでしたが、何とか入ってもらい、山へ。
人慣れしていたので、二度と人里に降りて来ないよう、ケージを叩いたり蹴ったりと、念入りに威嚇してから扉を開け放しました。
タヌキはダッシュで木々の中に走って行き、一瞬で姿は見えなくなりました。
涙が出たのは、私だけでしょうか。
カラのケージが歪んで見えます。
きっと人間なんて大嫌いになった事でしょう。
でも、野生で暮らすなら、人間を警戒するのは大事なことです。
徹底的に嫌われるのはタヌキのためとは言え、辛いものです。
しかも、その日の夜は心配で心配で眠れませんでした。
キューキュー鳴いて私を探していないか、どうしても気になって、放した場所を一度見に行きましたが、影も形も見えませんでした。
これで良かったんだと思うものの、寂しさと心配は消えません。
タヌキもイノシシも住める、豊かな山の環境が続く事を祈るばかりです。
人間と暮らしてきた歴史の長い犬や猫とは違う、野生動物の成長を観察する貴重な体験でしたが、何ぶんお別れが悲しすぎて、もう二度と保護はしたくないと思った夏の思い出でした。