先日、10歳の子の避妊手術をしました。
無事に手術は成功し、元気に帰ってくれました。
それだけでは、そんなに珍しい事ではありません。
しかしこの手術は、複数の偶然が重なった「印象的な出来事」になりました。
まず、なぜ飼い主さんは愛犬が10歳になって突然、避妊手術をしようと思い立ったのでしょう?
逆に言えば、避妊手術になんとなく抵抗があったのに、10年目にして決断したのはなぜなのでしょう?
昨年、一日に連続して2頭の「子宮蓄膿症」の子が来院した日がありました。
どちらも中〜高齢で、重症度は異なりましたが、その日に手術が決まりました。
深刻な事態で、飼い主さんには「最悪の覚悟はしていてほしい」と話しました。
たまたまその日、その場に居合わせたのが、10歳で避妊手術をしようと決断したあの飼い主さんでした。
高齢でも子宮蓄膿症が起こることを知り、その時のグッタリとしたワンちゃんたちの様子を間近で見て、10歳とは言え「うちの子が元気なうちに避妊手術を受けさせよう」と決断したそうです。
そして、そのワンちゃんの手術日を迎えました。
手術前の血液検査では異常なく、麻酔開始。
麻酔で眠ってもらってから腹部の毛刈りをして、乳腺と外陰部のチェックをすると、陰部の腫れやおりもの等は無いものの、最終発情が昨年末だった割には乳腺が発達していました。
子宮や卵巣に繋がる血管が発達していたり、逆にもろくてちぎれやすい場合があるので、警戒して手術をすすめます。
卵巣にも発達した卵胞が複数あり、子宮も水腫を呈して少し大きくなっていました。
「ちょっと嫌な感じだな」と思いつつも、子宮蓄膿症かどうかはっきりするのは、手術後の検査です。
手術を終え、麻酔からの覚醒を無事に確認して、さて検査。
手術前の血液検査では白血球数が上がっていなかったので、持続した卵胞による子宮水腫だろうと思いつつも、取り出した子宮に切れ目を入れました。
子宮に溜まった液体は僅かに黄色く濁り、粘張性。
背中に冷や汗です。
顕微鏡検査では球菌を認めました。
つまり、子宮水腫から細菌感染を起こして子宮蓄膿症へ移行真っ最中。
恐らくは、本当に初期段階だったのでしょう。
もし、飼い主さんがあの日・あの場に居合わせなかったら・・・
もし、飼い主さんが避妊手術をしようと決断しなかったら・・・
数日内には体調を崩し、生死をさまよう事態になっていたのではないでしょうか・・・。
そのワンちゃんは元気に帰宅し、約10日後の抜糸も無事に終わりました。
子宮蓄膿症は、当院だけでも毎年数頭発症します。
子宮蓄膿症は、死亡率の高い病気です。
今回のような偶然があると「やはり避妊手術はした方が良い」と改めて思い、印象深い出来事になりました。